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SDGs達成に向けた札幌宣言の実行
-安全な水への化学工学の貢献-<オンラインのみ>

開催概要

日  時: 2021年9月24日(金曜日)13:00-16:00

開催場所:オンライン( 化学工学会第52回秋季大会 内)

開催趣旨:化学工学会は、2019年9月APCChE 2019において『国連持続可能な開発目標(SDGs)に関する宣言-人々の「健康、安心、幸福」のための化学工学-』と題する札幌宣言を発表しました。SDGsを共有ビジョンとし、化学工学者が、化学工学と関連する技術の進歩を通して、人々のウェルビーイングの推進への貢献を第一の目的としています。このために、Efficiencyの視点に加えて、Sufficiencyの視点で技術を捉え社会に実装することが求められます。
本シンポジウムでは、すべての人々の水と衛生へのアクセスの実現と持続可能な管理に向けた世界の取り組みに焦点をあて、化学工学会内に蓄積してきた豊富な知を活用した課題解決の道を探ります。そのために、先進的な取り組みを学ぶとともに、地域毎に異なる社会的、経済的、環境的な条件を踏まえた異分野との協働を議論します。具体的には、学会内外の多様な視点からの講演に続けて、登壇者に加え参加者の皆さんにも加わっていただいて参加型のグループ討議を実施します。

プログラム

 

13:00-13:10 開会挨拶  (早大先進理工)  野田 優 氏
13:10-13:40 ウェルビーイングと水 (日本女子大学) 宮崎 あかね 氏
13:40-14:10 分散型水処理・給水システム -SDGsへの取り組み- (三菱ケミカルアクア・ソリューションズ(株)) 佐原 絵美 氏 ・ 等々力 博明 氏
14:10-14:40 海の豊かさをもたらす水管理 (広島大学) 西嶋 渉 氏
14:40-15:30 グループ討議  
15:30-16:00 総合討論  

 

主  催:戦略推進センター・SDGs検討委員会、環境部会

協  賛:日本化学工業協会、新化学技術推進協会

後  援:国際連合工業開発機関(UNIDO) 、日本学術会議

オーガナイザー:野田 優 (早稲田大学)、山本光夫 (東京大学)、藤岡沙都子 (慶應義塾大学)、飯野福哉 〔国際連合工業開発機関(UNIDO)〕、平尾 雅彦 (東京大学)

講演要旨・チラシ

総合討論ダイジェスト

準備中です

グループ討議結果

グループ1:ウェルビーイングと水


グループ1では、日本女子大学の宮崎様にご講演いただいた「ウェルビーイングと水」について、おもに「EfficiencyとSufficiency」の視点から議論を深めた。
 水供給における「EfficiencyとSufficiency」では、前者に該当する効率・質の追求に傾倒せず、どのような水がどれだけ求められているのか、という後者の視点も取り入れ、広くニーズ側との意見交換を行うことの重要性が議論にあがった。たとえば、開発途上国への水供給支援では、ニーズとミスマッチしたシステムが使われなくなった事例がある。ニーズに添わない技術導入は持続可能性が低く、ウェルビーイングの向上にも繋がりづらいとの意見がみられた。
 一方で、飲料水の安全性のために一定の基準は必要であり、化学工学は特にこの部分に寄与できるとの視点も提案された。加えて、日本の水道水はアクセス性の高いインフラであり、安全性が高く、カーボンフットプリントも少ないことから、多様化した価値観の中でも飲料水としての価値があり、その利点を社会的にも広めていくべきとする見解が得られた。
 水に関するウェルビーイングの向上には、水の量・質における需要と供給の齟齬がないよう、地域・時代・ジェンダー・生活様式などによるニーズの多様性を理解する必要があり、多様化したニーズに合致した解決策が求められているとの結論に至った。需要と供給の不一致を解消する手段としては、地域ごとのニーズを住民自身が見つけ、技術側からは対話を通してニーズに追随したサポートを行うことが提言された。また、水供給の下流において、個々人が浄水フィルタ使用などの調節を行い、需要に適合させることでウェルビーイングへの貢献があると期待された。
 ウェルビーイングと水について知見が深まり、様々な提案が行われた実り多い議論となった。

グループ2:途上国での水管理


グループ2では、三菱ケミカルアクア・ソリューションズの佐原様にご講演いただいた「分散型水処理・給水システム ―SDGsへの取り組み― 」を参考に「途上国での水管理」について2つの観点から議論を行った。
 【1つ目】 招待講演に対する質問について。質問の内容は大きく3つある。① 耐用年数や膜ろ過の情報など水処理・給水システム自体の質問: 耐用年数は一定であるが、水質と導入先のニーズに合わせてシステムを組んでいる。そのため、水処理・給水システムは多種多様であるが、海水の処理はコストや排水の問題などがあるため行っていない。② 今までの導入プロジェクトに対する質問: 都市部や農村部の違いや各ニーズへの対応方法、導入時の障壁など実際のプロジェクトに対する経験についての質問があり、具体的な体験や数値から詳細に説明あり。途上国でのエネルギー事情にあったシステムの提供や、管理システムではソーラーパネルやモバイルの活用でリースなブルでミニマムな機能で対応していた。③ 分散型水処理・給水システムの今後の展望についての質問: 今後の海外での展望もお話しいただいた。もともとは、前身のウェルシー時代からのビジネスで、ベンチャー気質かつ顧客目線で事業を展開してきたことが良かったので、これからもその精神を忘れずにいたいとのこと。
 【2つ目】  こんな経験をしている人材を採用、育成したいなどのメッセージは? 社会人の方々から、バッググラウンドやメッセージをいただいた。「具体的にやりたいことがあればどんどん言葉にしていくということが重要」「生のビジネスの秘訣として、技術も大事だが市場との親和性も大切」「強い意志や高い行動力、成長し続けられるかどうかを磨いてほしい」などの貴重なアドバイスをいただいた。
 三菱ケミカルアクア・ソリューションズは、水処理の分野で途上国のSDGsに貢献するために、日本で培った技術やビジネスをそのまま展開するのではなく、その土地の環境、慣習、文化や風土なども理解し、受け手のニーズに応えていくことが大切として、JICAやUNDPの支援も得ながら進めていた。基幹となる技術を軸に、展開面(水の品質、コスト、提供量)や管理面(教育、情報共有)も含め、いかに柔軟な対応を行ってきたか、事例を示した。そもそも、国内でトップシェアを占める事業をもつ企業であっても、途上国でのSDGsへの貢献やビジネス展開については二の足を踏む企業が多い。そのようななかで、三菱ケミカルアクア・ソリューションズが実施する原動力となったのは、三菱ケミカルアクア・ソリューションズの経営層の途上国にも展開しようという判断と、JICAやUNDPなどの外部支援(中小企業に対する資金面の補助、現地ネットワーク)に加え、それを実行する社員が本質をふまえ情熱をもって提供する水処理システムを選択・提案して導入していくことと、水処理以外にも現地の農業促進や水販売ビジネスなどの現地住民の自立を促す取り組みを合わせていること等の結果であることがわかった。

グループ3:海洋に関わる水管理


グループ3では、広島大学の西嶋様にご講演いただいた「海の豊かさをもたらす水管理」を参考に議論を行った。
 豊かな海の実現のため、まず「豊かな海とは何か」、具体的な目標(各種数値など)を定めなければならない。これは瀬戸内海のような閉鎖性水域、開かれた水域にも共通するが、海域ごとに抱える問題が異なるためであり、「豊かな海」の姿は水産学、生態学といった他学術分野、その海域に関わる市民と共に設定する必要がある。
 次に、「豊かな海」を実現するための手法、たとえば貧栄養の解消が必要であれば「足りない栄養塩は何か」、「その栄養塩を供給するにはどのような方法で、どこからどれだけ供給すべきか」について、栄養塩の動態モデルを通じた数値解析を行いながら立案することとなる。ただし、水処理施設をあげれば、処理水の水質の変動があるなかで基準値を超えないことが前提で運転されており、水処理施設からの栄養塩供給量を上げるシナリオでは、基準値の扱いといった制度上の課題の改善と共に、処理水水質の変動が抑えられる水処理技術も必要となる。このように「豊かな海形成」のSDGs目標達成に向けたアプローチにおいて、化学工学の貢献が求められる。
 なお、アプローチの実施に際しては、現場の関係者による協力が肝要である。たとえば、離島の周辺海域では畑などの汚濁負荷源があるが、畑を管理する人々は土や栄養塩の流出抑制に全く関心がないケースもある。「豊かな海」実現に向けたアクションを確実に実施するには、土木、農学といった「海洋との関わり」のある他分野とも連携をとりながら、現場の関係者にアクションの重要性を周知させる啓もう活動も必要となる。
 「豊かな海」を実現するためには、化学工学の観点から導かれる手法、アプローチを化学工学の範囲を超えた部分での実践、実動することが不可欠であり、他の学術分野と海に関わる人々への協力の働きかけ、周知が重要である。

グループ4:水に対する化学工学の貢献


グループ4では、「水に対する化学工学の貢献」をテーマに議論を行った。
 個人のWell-beingに資するべく、それぞれの目的に応じた安全で質の高い水をつくるためには、コストとエネルギー双方の視点から水処理プロセスが最適化される必要がある。低コストであるだけではなく、カーボンニュートラルの視点からも低エネルギー、低環境負荷であることが求められる。化学工学はこれまで蒸留や膜分離などの水処理システムを開発してきたが、上下水道システムも含めて、これらはかなり最適化されているように思われる。しかしながら、さらにコスト・エネルギー面の双方で最適化された良質な水を世界に行き渡らせるためには、さらに革新的なプロセスの開発が求められると共に、これまでの研究や消費で蓄積されたデータを集約し、それらをビッグデータとして活用することも重要である。そのためには、化学工学者がさらに俯瞰的な視野をもち、互いに協同することが一層求められる。
 水処理システムの開発においては、求められる水質を地域の価値観と状況に応じて具体的に定め、必要以上の分離プロセスを省略し、地産地消で省エネルギーな技術およびシステム開発が必要であるという意見があった。現状日本では手洗い、トイレなど種々の排水を区別なく下水道に流しているが、これらを目的別に回収することで分離コストを低下させることができるのではないかという具体的なアプローチも提案された。
 また、適材適所のシステムを提供できることが重要ではないかとの意見があがった。海外に限らず日本の僻地でも、水道を引くことで多大なコストを要する場合は分散型水処理システムを導入することも一案として提案された。さらに世界に目を向ければ、日本とは異なる世界の各所の価値観をしっかりと理解することも重要であろうとの意見もあった。
 以上のように、水に求める水や栄養などの付加価値の多様化への対応を、技術のみならずシステムの面からも適材適所に検討し、コスト・エネルギーの両面で合理的な解決方法を提供することが、水に対する化学工学の貢献であると結論づけた。

グループ5:国際連携とダイバーシティ


グループ5では、「国際連携とダイバーシティ」をテーマに議論を行った。
 水に関する諸問題の解決は、SDG 6,SDG 14のみならず、教育格差の是正やすべての人の健康に直結する重要な取り組みである。一方、水に対する考え方や、水に求める質の基準は国によって様々である。たとえばアフリカでは、飲料水としての水を優先するために水を使わないトイレがある。またベルギーでは、トイレの洗浄に浄水ではなく、雨水を利用している。この2つの事例をみても日本とは水に対する意識が全く異なり、飲料水以外の水もウェルビーイングに関わることを考慮しなくてはならない。
 私たちのグループではダイバーシティを文化、家族構成や地域・貧富格差といった広義の意味で捉え議論した。いつの時代も貧富の問題があり、それが安全な水へのアクセスを妨げる要因のひとつになっている。これを解消するべく、三菱ケミカルアクア・ソリューションズのように積極的に新興国に対して浄水技術の支援を行う必要がある。また、近年の日本の課題である水道管の老朽化への対応で都心部が優先されるように地域間の格差もある。
 これらをふまえ、プラント建設といった大規模インフラの配備などのユニバーサルな解決方法だけではなく、社会構造でとりこぼされる層を救うためにも個々を考慮した解決策が必要である。