札幌宣言
公益社団法人 化学工学会
国連持続可能な開発目標に関する宣言(2019年・札幌)
- 人々の「健康、安心、幸福」のための化学工学 –

人(People)、地球(Planet)、繁栄(Prosperity)、平和(Peace)、パートナーシップ(Partnership)の5つのP を包含した17の持続可能な開発目標(SDGs)を、アジア・太平洋地域の共通の地域目標と共有されたビジョンとして掲げることを認識し、

世界の中で高度成長が見込まれているアジア・太平洋地域において、経済における物質とエネルギーの使用強度が今後さらに高まることを予測し、

近年「気候危機」と表現される目に見える気候の急激な変化の悪影響が、パリ合意やキガリ改正などの国際環境条約の緊急的実施を必要としていることに直面し、

小島嶼開発途上国(SIDS)が直面する解決が困難な課題、特に自然災害と経済的損害という喫緊の課題を認識し 、

国連工業開発機関(UNIDO)が、循環型経済社会とグリーンインダストリーを推進する立場の国連機関として、この宣言の起草と周知に参画していることに謝意を表し、

積雪寒冷地において、次世代の子供達が笑顔で暮らせる持続可能な都市モデルの構築を目指す札幌市SDGs未来都市計画を意識し、

化学工学会の理事、個人会員、法人会員は、以下の決意を宣言する。


注:英語のWell-being(ウェルビーイング)は「心身ともに健やかで安心と幸せが満たされている状態」を指します。本訳では「健康、安心、幸福」と表記しました。

(目的)

1. 本宣言の目的は

i. 化学工学者が、化学工学と関連する技術の進歩を通して、人々の「健康、安心、幸福」の推進に貢献することを確かなものとすること

ii. 持続可能な開発目標(SDGs)の達成のために、化学工学者と協働する多様な分野と地域の学術コミュニティ、民間セクター、および行政を招き入れ、人々の「健康、安心、幸福」の改善を目指すこと

iii. この決意を共有し、宣言の実施を支援するパートナーを広く求めること

である。

(Efficiency から Sufficiencyへ:効率性を追い求める社会から充足性を感じられる社会へ)

2. 人々の「健康、安心、幸福」を達成するために、物質とエネルギーの使用強度を下げ、プロセスの効率性を高めることに加えて、充足性という本質的概念を取り入れ、人々の労働環境と地球環境を改善することを提言する。

3. 我々は、持続可能な社会の構築の基本的な要素となるグリーン・サステイナブル ケミストリーを実現する技術を見定めることによって、従来の工学を再評価し、充足性を達成するための新たな枠組みを創造する。

(新規技術の取込み)

4. 研究開発における優れた取り組みを継続しつつ、我々は新たに登場する技術の迅速な取り込みを一層加速することを重視する。これは、既存の化学工学分野に含まれる技術とその先にある技術の新たな関係を生み出すための機会を作ることによって実施できる。我々は自らの専門性の強化にも資する学際と超学際による事業を結集することに対して中心的な役割を果たすことを目指す。

5. 我々は充足した経済と社会の実現を追及するために、人工知能、IoT、ロボティックス、拡張現実、ブロックチェーン、フィンテックなどを含む新規技術を導入する。

(多様性と包摂性、ジェンダー平等、社会的弱者、難民への認識)

6. 次の10年間で、化学工学分野にて研究や開発を率いる女性の教員、学生、研究者、そしてエンジニアを増やすために我々は最善の努力を尽くす。

7. ジェンダー不平等の是正は全員の就労環境の改善に貢献し、全体として公共の「健康、安心、幸福」を向上させると我々は信じる。

8. 我々は包摂性がイノベーションを生み出すと信じており、協働する人々の多様な異なる見解、価値、文化的背景を率先して取り入れる。

9. 我々は社会的弱者、難民、および工学教育・研究能力に不足するコミュニティの経済力強化のために、化学工学の能力開発機会を向上するよう資源を動員する決意をする。

(教育と研究の役割)

10. 充足した経済の達成と人々の「健康、安心、幸福」の促進に向けて、次の10年間で、新規で包摂的なアプローチを化学工学の教育と研究活動に取り込む。その結果、質の高い教育と研究を通して化学工学という学問が持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献できる。

11. 我々は、若い化学工学者が異なる世代間・文化間の交流を通して、社会を構成する様々な立場の関係者と共に持続可能な開発目標(SDGs)に沿った研究を先導し、共創することに更なる努力を惜しまない。技術を中心としたシーズと持続可能な開発目標(SDGs)に沿ったニーズという異なる視点からの研究手法を併せ持つことは、人々の「健康、安心、幸福」を改善する化学工学手法の開発を促進する。ここでいう研究は持続可能な開発目標(SDGs)の達成に対する好影響と悪影響の両方の分析を含むべきである。

(産業の役割)

12. 産業は安全で、人々が手にすることができる製品を競争の激しい市場に供給することで、環境・社会的課題を解決する。

13. 我々は、気候変動の緩和と適応策を追求し、効率を改善し、働く人々の「健康、安心、幸福」の達成に向けて、積極的に製造施設の持続可能性の強化に取り組む。

14. 我々は、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向け、イノベーション、経済成長、雇用創出のそれぞれの分野で、中小企業と大企業が同等に重要な役目を担うと認識する。

15. 我々は、若い研究者や研究を志す若者が中小企業と交流し、アジア太平洋地域が直面する課題に協働して取り組むことを積極的に奨励する。

(地域からグローバルなパートナーシップへ)

16. 我々は行政、民間セクター、そしてその他の組織とパートナーシップを組み、政治的利害関係とは独立した形で協力し、持続可能性と人々の「健康、安心、幸福」を達成することを目指す。

(啓発と周知)

17. 我々は、人々の「健康、安心、幸福」の実現に向けて、一般市民、行政、産業セクター、そして学術コミュニティに対して本宣言の啓発活動に注力する。

(進捗度のモニタリング)

18. 我々は、上記の活動についての進捗を管理し、その結果を2年に1度の頻度で適切な化学工学の会議において報告する。

宣言起草委員会

ADSCHIRI, Tadafumi 阿尻 雅文
AMASAWA, Eri 天沢 逸里
FUJIOKA, Keiko 藤岡 惠子
FUJIOKA, Satoko 藤岡 沙都子
FUKUDA, Kanako 福田 加奈子
FUKUSHIMA, Yasuhiro 福島 康裕
GOSHO, Akiko 五所 亜紀子
HIRAO, Masahiko 平尾 雅彦
IINO, Fukuya 飯野 福哉
MATSUKATA, Masahiko 松方 正彦
NODA, Suguru 野田 優
SAITA, Soichiro 齊田 壮一郎
TOKORO, Chiharu 所 千晴
YASUI, Naoko 安井 直子
YASUNAGA, Yuko 安永 裕幸

2019年9月27日、札幌、日本