SDGs達成に向けた札幌宣言の実行-持続可能で充足する食生活の探索-
開 催 概 要
ポスター案内こちら
日 時: 2025年3月14日(金) 13:00~17:00
会 場: 東京理科大学 葛飾キャンパス
開催形態: 現地参加/オンライン
主 催: 化学工学会 戦略推進センター SDGs検討委員会
共同主催: 化学工学会 地域連携カーボンニュートラル推進委員会
共 催: 化学工学会 産学官連携センター
化学工学会 男女共同参画委員会
協 賛: 細胞農業研究機構
日本食品科学工学会
日本栄養・食糧学会
日本食品工学会
日本化学工業協会
新化学技術推進協会
バイオインダストリー協会
後 援: 東京都立産業技術研究センター
日本学術会議
農林水産省
セッションスポンサー:
キッコーマン食品株式会社 株式会社カネカ 森永乳業株式会社
オーガナイザー: 早稲田大学 天沢逸里 東京都市大学 兵法 彩 UNIDO 飯野福哉
開 催 趣 旨:
札幌宣言が目指す、人々の「健康、安心、幸福」を生活者視点から探索すべく、特に身近な「食生活」をテーマに、食の未来を講演と参加型ワークショップから描きます。講演では、食の持続可能性を実現しうる先端技術である培養肉から、従来からありつつも拡大が難しい昆虫食、そしてこれまでの食生活から食の「豊かさ」を探求するテーマまでカバーします。シンポジウム後半は、参加者とともに食生活の充足条件とサステイナブル化に向けた行動変容をテーマにワークショップを実施し、アクションに向けた契機を探ります。
プログラム
13:00~ 13:05 | 趣旨説明 | 天沢逸里 (早稲田大) |
13:05~ 13:35 | [招待講演] ライフスタイル変革-持続可能なフードシステムの実現に向けて- | 古川柳蔵 (東京都市大) |
13:35~ 14:05 | [招待講演] 美味しく食べてSDGsに貢献する昆虫食-“ゲテモノ”から “日常食”へ- | 内山昭一 (昆虫普及ネットワーク) |
14:20~ 14:50 | [招待講演] 細胞性食品(いわゆる培養肉)に係るルール形成の現状 | 吉富愛望アビガイル(細胞農業研究機構) |
15:00~ 15:10 | グループワーク説明 | 天沢逸里 (早稲田大) |
15:10~ 16:30 | グループワーク | |
16:30~ 17:00 | まとめ | 学生アシスタント |
グループワークまとめ
テーマ: 持続可能で充足するこれからの食生活
5つのグループに分かれて 地産地消・ヴィーガン・細胞性食品・昆虫食 など様々な食の選択肢について深掘りしました。「満ち足りた食生活の条件とは?」「サステナブルな食事のために私たちはどう変われるか?」を軸に、今からできるアクションと、そのアクションを実行できる条件を考えます。ゲストに講演者3名をお迎えしてフードテックの実用化についての生の声も伺いました。
地産地消
地産地消グループは、カーボンフットプリントをはじめとする環境負荷低減・持続可能性の観点から「大豆」をテーマとして地産地消の議論を行った。その結果、ツーリズム等を活用しながら食材の付加価値を浸透させることが地産地消の推進において効果的であるという結論に至った。
大豆製品は他食品と組み合わせて利用することができる一方で製造には特別な設備や職人技が求められる特徴を有している。また、栽培された多くが油として利用され、国内で賄えていない現状があることが課題として挙げられた。一方で、大豆を使った調味料は保存性の高さが利点であり、大豆製品を手作りする機会を通じて大豆のおいしさや可能性に気づくのではないかという前向きな意見が出された。この議論を踏まえ、持続可能な選択に向けて、旅行体験を通じ大豆製品作成を体験できる機会を提供し製造工程への理解を深めることが付加価値を高めることが効果な策であると結論づけられた。これにより。大豆油の使用量を減らすために、大豆以外植物を原料とした油絞り技術が必要であることも確認された。
植物性タンパク質
植物性タンパク質のグループでは、大豆ミート、代替乳(豆乳、ココナッツミルクなど)、ポテトプロテイン(デンプンの廃液に含まれるタンパク質、回収技術が現在開発中)の3つを例として議論を行った。
まず、これらの食品に対する個人の感覚を共有した。これらの食品は、比較的持続可能性が高く、多くの人が受容できると感じていることが分かった。すでに身近にある代替乳に関しては、各個人の好き嫌いはあるものの、豆乳やアーモンドミルク普段の食生活に取り入れていきたいと考える人が多かった。しかし料理中などで使われる牛乳をこれらで置き換えるということに関してはまだまだ不安が残るという意見が印象的であった。一方で、現在開発中の大豆ミートやポテトプロテインに関しては、「環境にやさしそう」、「健康に良さそう」という付加価値に関する意見が多く、好印象を抱いている人が多かった。
次に、これらの食品をより身近なものにしていくために必要なことは何かを議論した。上記の3食品は肯定的な印象がもたれているものの、社会導入は十分に進んでいない。その要因として、食生活を変えることに対する心理的ハードルの高さがあげられた。議論の結果、ハードルを取り除くために有効と思われる2つのポイントが浮かび上がってきた。
第一に、代替品ではなく新たな食品としておいしさや存在価値を追及することが必要ではないかと考えた。「大豆ミート」や「代替乳」というように、何かの代替として売り出せば、従来の食品と比較され、結果的に従来の食品が選ばれがちである。しかし、豆乳・アーモンドミルクというように、製品としてみれば、その製品としてのおいしさ、価値がある。これらの価値を最大限引き出せるような製品開発・調理法の探求を重ね、独自色のあるネーミングで売り出すことが重要なのではないかと考えた。
第二に、付加価値の認知を広げていくことがあげられた。健康に良いといった身近な付加価値から広げていくことはすぐに効果があるのではないかと考えた。一方で、環境負荷・プロテインクライシスへの対策といった観点での付加価値も重要な要素であるが、これらの価値は自身の生活の中だけでは意識することが難しく、実際の行動に結びつけるのは難しいのではないかという意見が出た。これらの付加価値を浸透させ、行動変容につなげるためには、幼少期の教育が鍵になるのではないかと考えた。
細胞性タンパク質
細胞性タンパク質の討議を行った。セッション1では、細胞性加工食品、細胞性の牛肉、畜産肉を評価対象とし、この順に持続可能性が高いと考えた。参加者全員がこれら全てを「どちらかというと食べたい」と答えた。特に、細胞性加工食品は他の食材に培養肉を補う形で使用できるため、持続可能性が高く食べやすいと評価された。セッション2では、細胞性加工食品を家庭で食べることを前提に、普及に向けた課題と改善策を議論した。Materialでは味やコスト、保存や流通法の確立が課題に挙げられ、主にコストダウンや環境を配慮した技術開発が必要とされた。Meaningでは、食文化としての定着不足、生産情報の不足が指摘され、アセスメントを行う専門家を集め、消費者への情報提供を充実させることが求められた。Skillでは、新たな調理法の確立やアレルギーリスクが課題に挙げられ、教育や啓発活動の重要性が強調された。細胞性加工食品の普及には、技術開発以上に社会的受容のバランスを取ることが不可欠である。
昆 虫 食
我々の班では、昆虫食をテーマに食の持続可能性について議論した。セッションは大きく分けて二つ行われ、一つ目のセッションでは具体的な昆虫食をいくつか挙げ、それらを持続可能性と関心の観点から、既存の食品と比較した。昆虫食としてコオロギとイナゴを取り上げ、既存の食品として同じタンパク源である牛肉と大豆を取り上げた。大豆、牛肉はともに世界各国で広まっており、関心に関しては申し分ないが、日本は輸入大国であることから、持続可能性は低いという結論が出た。逆に昆虫食に関しては、見た目や味に問題があることに加え、調理方法が少ないなど、食生活を支えるには技術不足であるため、関心は高くない。しかしコオロギに関しては世界中で採取できるため、大豆や牛肉よりは持続可能性が高いと考えられた。この結論を踏まえて二つ目のセッションでは、昆虫食を広めるための方法について議論した。昆虫食が普及するためには、まず味や見た目の改善を含む実用化のための技術開発が必要であり、加えて食品だけでなく他の製品としての普及も視野に入れるべきであるという意見が出た。また現代は昔に比べて若者の虫に対する関心が薄れているため、学校などの教育機関を通して、昆虫食の伝統を踏まえ虫への関心を高めることも必要であると考えられた。
ビーガン
菜食・ビーガンの社会進出において、特にビーガンへの認識の違いが顕著になった。ビーガンに対してヘルシーやエネルギーが足りないと言った考え方を持ちがちであるが、実際の欧米のビーガンは大量に野菜や油を摂取し、大型である実情がある。今の日本のビーガンはあくまで入り口に過ぎないと考えられる。入口から入り、習慣化することでよりリアルなビーガンや菜食料理に近づくことができる。しかし、文化や宗教の観点から社会進出するのには大きな壁があると考えられ、我々のグループでは、知識やインフラ整備に力を入れることによりビーガンや菜食料理を広めようと考えた。単一品目のみを販売する店を設置し、今ある食材をどのように生かすか、素材の味を大切にする地域づくりを行うことで文化や慣習が根付いてくるのではないかと考えた。特に自身で栽培し、食糧を得ることができる田舎地域において整備しやすいのではないかと思われる。